本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 健康長寿ナビ > 高齢者の食欲低下について 〜年を取るとどうして食欲がなくなるの?~

高齢者の食欲低下について 〜年を取るとどうして食欲がなくなるの?~

はじめに

“最近、何となく食欲がないことが続いているな”、“ズボンを絞めるベルトが少しゆるくなったな”(図1)、と感じたことはありませんか?これは、食欲不振が持続することを放置して低栄養状態となったために、体重減少をきたしていることが考えられます。さらに進行すると、筋肉をつくるタンパク質が不足するためにサルコペア(筋肉がやせること)を合併して歩行などが困難になって転倒して足を骨折したり、脳に行くエネルギーが不足して認知症となることもあります。

では、加齢によって食欲が低下するのはどうしてでしょうか?その原因として考えられる器質的な疾患(原因となる病気があるもの)と機能的な疾患(原因となる病気がはっきりしないもの)とに分けて考えていきましょう。

図1

1.器質的疾患

摂取した食事の消化吸収を司る臓器が病気となると、せっかく頑張って食べても、処理ができないため、「食べなくてイイよ」と脳に信号が送られて食欲が低下、体重が減少してきます。代表的な疾患としては、胃癌、膵癌などの悪性疾患、胃・十二指腸潰瘍、慢性膵炎、肝硬変などの良性疾患があげられます。癌などの悪性疾患はもちろんのこと、慢性膵炎や肝硬変でも命にかかわる病気ですし、胃・十二指腸潰瘍では急に血を吐くなどで来院される場合がしばしばあります。特に高齢者では内臓関連の知覚が衰えて腹痛などの症状が出にくいので、悪性疾患でも良性疾患でもかなり進行した状態で発見されることが少なくありません。“食欲がないだけで、腹痛などの症状がないからたいしたことはない”と思わずに、まずは、早めに検査をして、病気の早期発見を心がけましょう。

2.機能的疾患

高齢になると飲み込む能力(嚥下機能)が低下して、1回の食事量が減少し、これが持続することで食欲に影響を及ぼすことがあります。味やにおいを感じることが弱くなることも食欲低下の一因と考えられます。最近では、新型コロナウイルス感染症のために家の中にこもりがちとなり、運動不足や体内での必要エネルギー量の減少をきたし、食欲が減退することが問題となっています。また、消化吸収を司る臓器、特に胃腸の機能が加齢により低下すると、やはり食べたものを体内で処理しきれないので食欲が低下してきます。胃のもたれや胃痛を訴える方もおられますが、高齢になると食欲の低下しか自覚されない方が少なくありません。肝硬変や慢性膵炎も広い意味での臓器の機能低下ですが、CT検査や腹部超音波検査にてその特徴的な画像所見が認められます。ところが、胃カメラを含む多くの検査をしても画像的には異常がなく、「どこも悪くない」、「気のせいだ」、「ストレスなどの神経的なものだ」、「悪い所はないから、通院しなくてイイです」と医師に言われたことがある方も中にはおられると思います。これらの中には機能的胃腸症(Functional gastrointestinal disorder : FGID)と考えられる場合があります。基本的に現代のストレスの多い環境にいる若い人に多いとされる疾患ですが、高齢者では症状が乏しく見過ごされている場合が少なくないと思われます。この病気の概念は世間的にはあまり知られていませんので、少し解説してみます。

a.胃腸の消化機能的メカニズム(図2)

脳と胃腸の機能は図2に示すように密接に関連しています。におい(嗅覚)や味(味覚)あるいは、食事が消化管にはいる直接刺激(脳相)により、胃では消化管ホルモンが産生されます。このホルモンは、胃粘膜から胃酸を含む胃液の分泌を促し、胃の運動を調整して胃での消化を助ける働きがあります(胃相)。その後、食事が十二指腸や小腸に到達すると今度は腸粘膜より産生される別の消化管ホルモンが、胃の活動を抑制して食欲を抑える方向に働きます(腸相)。なお、胃からはグレリンという摂食を亢進させるユニークなホルモンも産生されます。このグレリンは、空腹時の血糖値低下と関連すると言われていますが、脳の摂食中枢を刺激して食欲を高めます。反対に摂食後に血糖値が上がると脂肪細胞よりレプチンというホルモンが分泌され、満腹中枢に作用して食事を終わりにすることを促します。このように消化管と脳は、食欲および消化吸収の両面で互いに強く関係しています。

図2 食事摂取時の消化管の動き

b.機能的胃腸症(Functional gastrointestinal disorder : FGID)の考え方(図3)

ところが、ストレスを脳が感じると、図2のメカニズムが崩れて消化管運動異常が起きたり、内臓の知覚過敏を起こします。これにより、食後の胃のもたれや腸内のガス貯留などを引き起こしてお腹が膨れたような感覚を起こし、不安感や抑うつ感を感じるようになり、ますますストレスがたまる状態となるとの悪循環をきたします。高齢となると内臓の知覚が衰えて自覚症状が乏しくなり、結果として食欲低下や不安感だけを感じるようになると考えられます。

図3 機能的胃腸症(FGID)による食欲低下の負のサイクル

c.どうしたらよいのか

図3のメカニズムからもわかるように、ストレスをためないことが最も大切となります。しかし、長く一人暮らしであったり、現在のコロナ下のように長時間屋内で過ごすことが多くなってしまうと、この状態を通常の生活と思いストレスと感じないようになる場合がありますので注意しましょう。

  1. 食事の際には食欲を増進させる工夫をしてみましょう。
  1. 規則正しい生活につとめて、適切な運動をこころがけることや十分な睡眠をとるようにしましょう。

体を動かすことでストレスと感じていたことが解消することがあります。また、運動により筋力を維持することができます。体力が低下して出かけるのが難しいと感じられる方は訪問でのリハビリテーションなどを活用しましょう。普段できないような会話が弾んで心身ともに闊達となることがあります。

  1. 機能的胃腸症を疑う場合には、消化管運動を調整する薬などが有効な場合がありますので医師に相談しましょう。

おわりに

食欲不振が持続すると、いままで説明してきたように体が本来必要とするエネルギーが不足するために低栄養状態となり、体重減少をきたして歩行などが困難になったり、認知症を合併してくることがあります。こうなると、日常生活は、活気がなくなり臥床することが多くなり、そうすると必要エネルギーが少なくなるのでとますます食事が進まなくなるとの負の連鎖をきたして、ひどいときには寝たきりとなることも考えられます。高齢者の栄養状態を良好に維持することは、今後の急速に進行する超高齢化社会において元気な活力ある社会を構築する上で非常に重要なテーマです。

“たいしたことはないから大丈夫”と放っておかずに受診して、医師や栄養士に相談しましょう。当院では、摂食嚥下に関しては口腔外科、耳鼻咽喉科、老年内科、リハビリテーション科が、排尿・排便などに関しては泌尿器外科、消化器内科が中心となり、2022年7月に摂食嚥下・排泄センターを新しく設立しました。今回のテーマである摂食嚥下の機能的障害による食欲低下について、機能障害の部位と程度などの診断から治療までチーム医療として横断的にこのセンターにて診療をおこなっています。お気軽に受診してください。​